患者さんの疾患/治療の情報収集とネットワーキングについて考える

 

患者さんの疾患/治療の情報収集とネットワーキングについて考える

肺高血圧症と診断された時にこの病気について知っていたという患者さんはほとんどいないでしょう。肺高血圧症と診断された患者さんはどのような情報を求めているのでしょうか、そしてその観点からみた患者会の役割とはどのようなものなのでしょうか。
今回は、前回に続いて、村上さんの司会のもと、医師代表として九州大学の阿部 弘太郎先生、患者さんならびにご家族の代表として、嶋田 純子さん、原田 喜代子さん、原田 直喜さんにお集まりいただき、患者さんの知りたい情報や患者会から得られる情報についてお話しいただきました。

 


司会:

  • 村上 紀子さん
    NPO法人 PAHの会 理事長。20年近くにわたり患者会に携わる。

パネリスト:

  • 九州大学病院 循環器内科 助教 阿部 弘太郎先生
    肺高血圧症の専門家。診療だけではなく、PAHの会のイベントにも精力的に参加されている。
  • PAH患者 嶋田 純子さん
    2015年に特発性の肺動脈性肺高血圧症(PAH)と診断される。大学病院で診療を受けながら、PAHの会で出会った仲間と積極的に情報交換している。
  • CTEPH患者 原田 喜代子さん
    2002年にCTEPH(慢性血栓塞栓性肺高血圧症)と診断される。難病認定後も看護師として仕事を続けるも、その後2年程で退職。
  • 原田 直喜さん (喜代子さんの旦那さま)
    夫として喜代子さんを支える傍ら、PAHの会の九州地区の運営にも携わる。

vol.1 患者さんが求める情報
vol.2 患者会の活動

 

 

肺高血圧症と診断されて

肺高血圧症と診断されて

村上さん:まずは、肺高血圧症と言われた時はどのように思ったか、また、その時に欲しかった情報は何だったかについて伺いたいと思います。

嶋田さん:肺高血圧症と聞いた時は、どんな病気かさっぱりわかりませんでしたが、先生の深刻な様子から大変な病気だということはすぐにわかりました。「すぐご家族の方に…」とか「書類を書いて役所に申請して…」などという言葉を上の空で聞いていました。先生が、私の気持ちを気遣って「インターネットで調べられるから少し自分で見てごらん」とおっしゃってくださいましたが、しばらくはそんな気にもなれず、現実逃避して、言われるがまま治療を受けたという感じでした。その後、気持ちが落ち着いてくると、「この薬は何のために飲んでいるのだろう?」と疑問を感じて、自分で調べることができるようになりましたが、それでもなかなか実感はありませんでした。

原田さん:私も肺高血圧症という病名を先生から聞いた時点では病気のことは全く知りませんでした。最初、原発性の肺高血圧症と診断されたのですが、主人がインターネットで調べると余命が5年ほどと書いてあると聞かされショックを受けました。その当時知りたかったのはやはり治療のことです。先生からは、プロスタグランジンI2(PGI2)製剤の持続投与療法を患者さんが受けているところを見せていただきましたが、私自身は仕事を続けたかったこともあり、まずは内服薬による治療を選びました。PAHの会で新しい薬が開発されると聞いて、先生に相談して治験に参加したこともあります。

原田さん(夫):家内が肺高血圧症と診断された2002年当時は、今とは比べものにならないほどこの病気の認知度は低かったと思います。治療薬も少なく、先生方からの情報も少ないという状況でしたが、インターネットで患者さんの会のホームページや難病情報センターのホームページを見つけ、必死に読みました。その後、PAHの会に出会ったのです。

嶋田さん:実は私は、肺高血圧症と診断されてから3ヵ月後くらいに、急に絶望感に襲われました。情緒不安定になり、理由もなく涙がポロポロ出てくることもありました。先生に相談したところ、精神科を紹介していただき、そこで処方された薬を飲んだら1週間くらいで快方に向かいました。この病気では、同じような悩みを抱えている人は少なくないと思います。自分だけで悩んでいないで、早めに先生に相談することが重要だと思います。

肺高血圧症と診断されて

阿部先生:そうですね。それは、がんを突然宣告された方と同じような心の状態なのだと思います。嶋田さんの場合は、抗うつ薬を飲み始めた頃にちょうど肺高血圧症の薬も効いてきて、それですぐによくなったということかもしれません。

村上さん:阿部先生は、患者さんからどのような質問を受けることが多いですか。

阿部先生:病気に対する正しい知識はどこから得られるのか、という質問は多いですね。予後や医療費助成についての質問も多いです。予後についての質問には、実際の数値をお示ししながら、きちんと治療すれば長生きできることをお伝えしています。遠方からいらっしゃる方には医療連携体制についても聞かれます。

村上さん:以前、九州大学で肺高血圧症の説明に使われているパンフレットを拝見する機会がありましたが、大変わかりやすかったです。

阿部先生:ありがとうございます。パンフレットの話で思い出しましたが、医療従事者の対応を不安視する声を患者さんから聞くこともあります。われわれのような専門施設でも、医療従事者によって知識にばらつきがあるため、肺高血圧症に普段関わっていない看護師にも、パンフレットを用いてPGI2製剤の投与法などを勉強してもらうようにしています。

 

患者会でこそ得られる情報

患者会でこそ得られる情報

村上さん:PAHの会は、当時はPPHの会といいましたが1999年に私と数名の仲間で設立しました。設立のきっかけは、私の娘が肺高血圧症と診断されて治療のために渡米した際に、現地の患者会(PHA)に参加したことでした。

嶋田さん:私は2015年の11月に、主治医の先生が講演をされるということでPAHの会に誘っていただき、参加してすぐに入会を決めました。その後、夜間の酸素療法を始めたのですが、どうしてもくしゃみが出て困っていたところ、PAHの会で出会った方から液体酸素を勧められ、変更してよかったことが印象に残っています。それからはわからないことがあれば他の患者さんに聞いてみたりしています。また、患者会からアメリカの患者さんが書かれた本をいただいたのですが、大変勉強になります。難しい内容もありますが、血管の中の写真は見やすく、平均肺動脈圧の計算式などもわかりやすく紹介されていて、インターネットでは得られない情報がたくさんありました。

村上さん:この本は、患者会が配るという条件で著作権料なしで作成することができました。他にどのような情報が患者会から得られましたか。

原田さん:患者会に入って、治験の情報や身体障害者手帳をもらえる可能性があることを教えてもらいました。医療費助成のお話は先生からも教えていただきましたが、身体障害認定の詳細については患者会で知りました。

 

患者会に医師が参加する意義

村上さん:阿部先生、医師のお立場から、患者会との関わりについてお考えをお聞かせください。

阿部先生:私は、患者会に医師がいることの重要性について、身をもって経験しています。実は、家族が別の難治性の病気にかかっていて、私自身もその患者会に入っています。入会当時、九州地区の会に参加したところ、そこには医師がおらず、病気や治療法についてあまりわからない人たち同士が不安な心情を語り合っていました。患者さんは不安があっても、主治医に対して別の先生の意見が聞きたいとはなかなか言えないようなのです。患者会で専門医師がわかりやすく講演をして、質問を受けることで、患者さんにとってセカンドオピニオンと同じような役割も果たせます。別の医師にも相談することで患者さんは安心してその治療を続けられるのではないでしょうか。

村上さん:患者会で医師と触れ合えるのも患者にとってはありがたいです。私もアメリカの患者会に参加した時、患者さんの多さにも圧倒されましたが、何よりもアメリカ中から高名な先生方が参加し、患者と一緒に食事をしながらファーストネームで呼び合っていることに感動しました。その時の想いから、PAHの会では地方会や全国大会に、専門施設で肺高血圧症の患者さんを診療されている先生方にご参加いただいています。

阿部先生:それから、PAHの会のように、病態ごとにある程度分けて活動することがよいと思います。例えば肺高血圧症の中にもいろいろな病態があるため、患者さんが混乱しないように情報を提供することが大切だと思います。

 

患者会の開催

患者会の開催

原田さん(夫):私たちは2006年の9月に、初めて九州地区のPAHの会を開催しましたが、当時20数人の方に参加いただいたことを覚えています。そして今年で11回目を迎えます。正直なところ、運営は大変なことも多いですが、それに代え難い価値があるのでここまで続いてきたのだと思います。まれな病気ということもあり、なかなか周りに相談できる方がいない患者さんも多いと思いますので、ぜひご参加いただいて情報交換をしていただきたいですね。

村上さん:今、PAHの会には全国に4つの地方会がありますが、東京首都圏の会に続いて2番目にできたのが九州の会です。その後、関西の会、北海道の会ができています。地方会は、チラシ作りから会員の方へのご案内、先生方への講演の依頼まで、地区の会員の有志の方々によって運営されています。

原田さん(夫):そうですね。自分たちでやっていくというのが大事なことだと思います。

 

患者会の周知には医師や企業の協力も必要

患者会の周知には医師や企業の協力も必要

原田さん(夫):私の家内が肺高血圧症と診断された2002年頃と比較して、治療法が進歩し情報も入手しやすくなったので、患者会に入らなくてもいいのではという考えもあるようです。

村上さん:会の運営上、年会費(4000円)が必要なのですが、それが影響しているのではという指摘もあります。

原田さん(夫):患者さんに患者会に入ってもらうには、やはり肺高血圧症が専門の先生方からご紹介いただくというのが一番よい方法ではないでしょうか。

嶋田さん:そうですね。私も先生からお誘いいただきました。

原田さん(夫):今後、案内パンフレットや、病院内に貼っていただけるようなポスターを先生方にお渡ししてご紹介いただけるようにしていきたいと思います。

村上さん:患者会の周知には先生方の支援が必要ですね。

阿部先生:患者会がどんな団体なのかがよくわからないということで躊躇している患者さんもいらっしゃいますので、会の内容をホームページや会報などを通して積極的に紹介されるのもよいかと思います。

原田さん(夫):マスコミの影響力は大きいですから、地元紙などに記事を書いてもらえると効果的ですね。患者会を開催することをお伝えしておけば、取材に来ていただけることもあるのではないかと思っています。

村上さん:PAHの会でも、プロサッカー選手をCTEPH啓発大使とした企業主催のイベントに関わったことがあります。その時は、やはりたくさん取り上げていただきました。患者会の周知には企業の支援も重要です。

村上さん:本日は、肺高血圧症の患者さんが求める情報、そして患者会などのネットワークがその情報を得るための助けとなり得ることが実感できました。患者会でしか得られない情報や出会いがありますので、肺高血圧症の患者さんには、ぜひ患者会に入っていただきたいと思います。また、患者会には医師の先生方のご参加が必要ということも確認できました。これからも多くの肺高血圧症の患者さんに患者会にご参加いただき、この難病を克服するために、一緒に前向きに、頑張っていきたいと思います。

阿部先生:そうですね。私ども医師も、この病気で亡くなる方をゼロにするために頑張っていきたいと思います。

村上さん:本日は、ありがとうございました。

 

患者会の周知には医師や企業の協力も必要

 

 

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